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最高裁判所第二小法廷 昭和38年(あ)1083号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人小川捨一の弁護人飯塚信夫の上告趣意第一点は、違憲(三一条違反)をいうが、その実質は単なる法令違反の主張であり(なお、他人の依頼により犯罪貨物の処分の媒介をした者が、その後、その処分により該貨物を取得した者の依頼によりこれを他に運搬した場合には、媒介罪のほかに運搬罪が成立するものと解するのが相当である。)、同第二点は、事実誤認の主張であり、第三、四点のうち、違憲(三八条違反)をいう点は、所論の各自白が所論のように不法不当な勾留または強要によるものと認められないから、所論はその前提を欠き、その余は、単なる法令違反を前提とする事実誤認の主張であり、同第五点は、事実誤認の主張であり、同第六点は、単なる法令違反の主張であり(なお、関税法一一八条二項にいわゆる犯人には、情を知つて犯罪貨物を運搬し、保管し、有償もしくは無償で取得し、またはその処分の媒介もしくはあつせんをした者などをふくむことは、当裁判所の判例――昭和三四年(あ)第一二六号同三八年五月二二日大法廷決定、刑集一七巻四号四五七頁、昭和三六年(あ)第八四七号同三九年七月一日大法廷決定――の明示するところである。)、いずれも上告適法の理由に当らない。

被告人赤岩寿雄、同梅沢一治の弁護人井上英男の上告趣意第一点は、単なる法令違反および事実誤認の主張であり、同第二点は、事実誤認および単なる法令違反の主張であり(なお、関税法一一二条にいう保管とは、委託を受けて犯罪貨物を自己の管理下におくことをいい、その目的のいかんを問わないものと解するのが相当である。)、いずれも上告適法の理由に当らない。

同第三点について。

所論は、被告人梅沢は第一審判決判示第四の物件を保管しただけであるから、同被告人に対する追徴の言渡は、判例に違反し、関税法一一八号二項の解釈を誤り、ひいて憲法二九条および三一条に違反するというのである。しかしながら、所論引用の大法廷判決は、共犯者全員に追徴を命ずることを当然の前提としているものであるから、判例に違反することにはならないし、関税法一一八条二項はいわゆる犯人には、所論のように犯罪貨物を保管しただけの者をもふくむ趣旨であることは、弁護人飯塚信夫の上告趣意第六点について説示したとおりであるから所論違憲の主張はその前提を欠き、上告適法の理由に当らない。

被告人赤岩寿雄の弁護人山崎清の上告趣意第一点の一について。

所論は、違憲(憲法三一条、二九条違反)をいうが、関税法一一八条二項が憲法三一条および二九条に違反しないものであることは、昭和三七年(あ)第一二四三号同三九年七月一日大法廷判決の趣旨に照らして明らかである。所論は採ることができない。

同第一の二の(1)について。

所論のうち、関税法違反をいう点は、単なる法令違反の主張であり、事実誤認を前提とする判例違反および違憲(三一条、二九条条違反)をいう点は、原判決の認定しない事実を前提とするものであるから、その前提を欠き、いずれも上告適法の理由に当らい。

同第一点の二の(2)について。

判例違反の主張について。

所論は、原判決が最高裁判所の判例に相反する判断をしたというのであるが、犯人が犯罪貨物を善意の第三者に譲渡した場合に、犯人からその価格を追徴することができることは、昭和三七年(あ)第一二四三号同三九年七月一日大法廷判決の趣旨とするところであるから、所論は採ることができない。

憲法違反(三一条、二九条違反)の主張について。

犯人が犯罪貨物を第三者に譲渡したため犯人からこれを没収することができないとして、犯人からその価格を追徴する場合に、その第三者を訴訟手続に参加させなくても憲法三一条および二九条に違反しないことは、昭和三七年(あ)第一二四三号同三九年七月一日大法廷判決の趣旨とするところである。所論は採ることができない。

同第二点のうち、違憲(三一条違反)および判例違反をいう点は、原審でなんら主張判断のなかつた事項であり、また勾留の違法を前提として違憲(三一条違反)をいう点は、所論のように勾留が違法であるとは認められないから、その前提を欠き、同第三点は、違憲(三八条一、二項、三一条違反)をいうが、所論の各自白が所論のように違法な逮捕勾留によるものと認められないから、所論はその前提を欠き、同第四点は、違憲(三八条違反)をいうが、所論の各自白が所論のように強制脅迫によるものとは認められないから、所論はその前提を欠き、同第五、六点は、違憲(三七条二項違反)をいうが、原審でなんら主張判断のなかつた事項であり、同第七点は、事実誤認および量刑不当の主張であつて、いずれも上告適法の理由に当らない。

被告人梅沢一治の弁護人吉田幹父の上告趣意第一のうち、違憲(三八条違反)をいう点は、所論の各自白が所論のように強制、脅迫ないし誘導などによるものとは認められないから、所論はその前提を欠き、刑訴三一九条違反をいう点は、単なる法令違反の主張であり、同第二は、単なる法令違反の主張であり(弁護人井上英男の上告趣意についての説示参照)、同第三は、量刑不当の主張であり、いずれも上告適法の理由に当らない。

また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四〇八条により主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官奥野健一、同山田作之助の弁護人飯塚信夫の上告趣意第六点弁護人井上英男の上告趣意第三点および弁護人吉田幹父の上告趣意第二の迫徴の点に関する少数意見、ならびに裁判官奥野健一の弁護人山崎清の上告趣意第一点の二の(2)の判例違反の点に関する少数意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官奥野健一の追徴の点に関する少数意見は、次のとおりである。

没収とは犯罪に関係ある物件の所有権を剥奪して国庫に帰属せしめる附加刑であり、追徴は没収不能又は没収しない場合に没収に代わる換刑処分であるから、全然所有者でなかつた者に対して追徴を科することは許されないものと解する。けだし、かかる者は若し犯罪貨物の没収が可能な場合であれば没収処分により何ら経済上の実害を受けないものであるのに、没収不能のため、それに代わる措置として追徴を命ぜられることになると、没収不能という偶然の事情のため経済上の実害を受けるという不合理な結果を招来することになるからである。

前記の如く没収は犯罪に関係ある物件の所有権を剥奪して国庫に帰属せしめる処分であるから、犯罪貨物につき所有権を有する者に対し没収の言渡をなすことは当然であつて、他の共犯者との関係においても何ら不合理なものではなく、却つて全然所有者でも占有者でもない者に対し没収を科することは寧ろ無意味であり、不可能である。然るに、その所有者がその所有権を他の善意者に譲渡したため没収できなくなり又は偶然な事変のため、その物件で現存しなくなつた場合に、その譲渡又は事変に何らの原因をも与えなかつた他の(所有者でなかつた)共犯者からその物件の価額を新たに追徴するということは、その共犯者に対しては没収可能な場合に比し著しく苛酷であり、不合理である。従つて関税法一一八条二項にいわゆる犯人にはかかる共犯者は包含しないものと解すべく、若しこれを包含するものとすれば同条項は憲法三一条に反するものといわねばならない。

本件において被告人小川、同梅沢は本件犯罪貨物の所有者でなかつたことは記録上明白であるから右被告人らに対し犯罪貨物の原価の追徴を命じた原判決は違法であり破棄を免れない。

なお所有者以外の犯人より追徴すべきでないことについての詳細は、昭和二九年(あ)第五六六号同三七年一二月一二日大法廷判決(刑集一六巻一二号一六七二頁)及び昭和三四(あ)第一二六号同三八年五月二二日大法廷決定(刑集一七巻四号四五七頁)における私の意見と同一であるから、それを引用する。

裁判官山田作之助の少数意見は、次のとおりである。

わたくしは、関税法所定の所謂犯罪貨物(例えば密輸に係るこんにやく粉の如し)に対する没収に代わるその価格の追徴は、被告人がその貨物について所有権を有していたが、現在その所有権を失つている場合に限つて科せられるべきものと解するから(その理由は昭和二九年(あ)第五六六号同三七年一二月一二日大法廷判決、刑集一六巻一二号一六七二頁において旧関税法八三条の追徴の規定について述べたわたくしの意見と同趣旨であるからこれを引用する)、かつて一度も所有権をもつていなかつた被告人小川、同梅沢に対し没収に代わる追徴を言渡した原判決はこの点において破棄を免れない。

裁判官奥野健一の判例違反の点に関する少数意見は、次のとおりである。

追徴は、刑の一種である汲収に代わるものであるから、刑罰法規不遡及又は事後立法禁止の原則の適用のあることは勿論である。ところで本件犯罪行為当時は、第三者所有物件の没収は、その手続法規が欠けていたため許されなかつたものであり、したがつて、没収に代わる追徴も許されないものであつたことは昭和三七年一二月一二日当裁判所判決に徴し明らかである。したがつて、たとえその後第三者所有物の没収に対する手続法規が制定されたとしても、これを遡及適用して没収をすることは許されず、したがつてまた没収に代る追徴も許されないものといわなければならない。

以上の次第で、本件においては、追徴の言渡をすることは許されないものと解すべきであるから。本件はこれを破棄自判すべきものであつて、上告を棄却すべきものではないと考える。(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

弁護人飯塚信夫の上告趣意

第一点 原判決は憲法第三十一条に違反するから破棄さるべきである。

即ち原判決によると被告人のこんにやく荒粉の処分の媒介と運搬の事実を併合罪と判断することは不当であると控訴の趣意に対し「なるほど、原判決が、被告人小川が本件こんにやく荒粉を昭和二十九年十月初頃原判示太陽生命ビル内倉庫に八屯を、同月下旬、同所と原判示猿楽屯町倉庫に三十二屯をそれぞれ保管した所為をもつて原判示第一の処分の媒介の所為に吸収されて別罪を構成しないものと判断したことは所論のとおりであるけれども、被告人小川が本件こんにやく荒紛四十屯につき処分の媒介を為した後、買受人たる被告人赤岩の依頼を受け、東京都内から原判示第三記載の遠隔の地点迄態々運搬したことは、右媒介の所為とは、記録上全然別個独立の犯罪を構成するものと認めるのを相当とするのであつて、到底所論の如く媒介の所為に包含せられるものとは解せられないので、所論は採用に値しない。」というのである。

併し乍ら物の処分の媒介についてはこれが運搬ということは極めて密接しており且つ不可分の関係にあつて独立して別々に考へることは情宜に反する。而も確定した事実関係によると被告人の処分の媒介と運搬とは何れも赤岩からの依頼により為されておるのであり、媒介の依頼と運搬の依頼とが別の時期に為されておつても同時になされたものと別異に考うべき理由はなく、赤岩の為すべき運搬を被告人が敢てしたものと見ることはできない。被告人としては処分の媒介に随伴してコンニヤク荒粉売買の履行のために運搬をしたに過ぎない。

而して判例によると「賍物牙保罪は賍物であるの情を知り乍らその有償処分に関する媒介をすることによつて成立するものであつてその媒介に当り媒介者が媒介の必要上賍物の寄託を受け又は自ら之を運搬することがあつてもこれ等の行為が媒介と不可分の関係がある場合には之を包括して観察し単一の牙保罪と見るのが相当である」(昭和二六年(う)第六〇号、同年四月一二日高松高裁判決、高裁刑集四巻五号四六五頁)といつており本件の如きも全くこれに該当する。これは運搬が処分の媒介の事後処分ともいうべきものであつて賍物故買後の運搬につき次の如き最高裁判所の判例があれば尚更である。

「原判決はその判示第三の事実において被告人が、その故買にかかる賍物を他に運搬した事実を認定し、これに対して刑法第二五六条第二項の規定を適用していることは原判文上明らかであるが同一人が既に故買した物件を他に運搬するがごときは、犯罪に因て得たものの事後処分たるに過ぎないのであつて刑法はかかる行為をも同法第二五六条第二項によつて処罰する法意でないことはあきらかである。」(昭和二四年(れ)第一五〇六号同年一〇月一〇日最高裁第二小法廷判決、刑集三巻一〇号一六二九頁)

従つて本件の場合に於ても被告人の運搬の所為は別罪を構成せず媒介の所為に吸収されるものとみるべきである。

而して既に処分の媒介として有罪の認定をする場合には運搬の所為に起訴があつても刑事訴訟法第三三八条第三号の二重起訴の禁止の規定に該当し第一審判決は公訴棄却の判決を為すべきであつたところこれをせず、原審に於てはこの点に於て原判決を破棄した上運搬の所為の起訴につき更めて公訴棄却の判決をすべきであつたのにこれをせず結局法律の定めの手続に違反して有罪を認定しているのであつて結局憲法第三一条の「何人も法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ又はその他の刑罰を科せられない」に違反し、刑事訴訟法第四〇五条第一号に該当するので原判決は破棄されて然るべきである。

そこで検討するに、被告人が最初逮捕されたのは昭和三十年六月十四日でありこれに基き同月十六日に勾留されておる。そしてその逮捕、勾留事実は赤岩外一名に対し関税を逋脱したこんにく荒粉を売却したとの事実である。一方再逮捕されたのは右事実で逮捕勾留の後勾留期間満期迄勾留しておきそして満期釈放の手続をすると同時に被告人の不知の間に昭和三十年七月五日に曹応常と共謀の上外国産こんにやく荒粉三十屯位を不正の手段を用いて輸入し関税を逋脱したという事実に基いて逮捕し同月八日に勾留されたものである。而してこれらの事実は第一審で証拠調のあつた逮捕状二通、勾留状二通及び被告人の公判廷の供述により明らかである。

然り而して原判決が引用する被告人の検察官に対する各供述調書が何れも再逮捕後のものであることは明らかなところである。

先ず先の逮捕事実につき被疑事実としては赤岩に対し売却したというのであるが関税法の規定によれば売却を構成要件にしたものがない。従つてこの逮捕は構成要件に該当しない事実を以てなされたものであつて全く逮捕そのものが違法なのである。第一審に於て第二十五回公判期日で立会検察官は「売渡しそのものが構成要件でないことについて異論はないが一応の事情を述べると構成要件に該当する事実が無であるところを単に売渡しの事実で逮捕勾留されたのではなく、その背景に運搬等の構成要件に該当する事実があつて逮捕勾留されたのである」といつておる。然れども逮捕状の構成要件の適法不適法はその後の取調により事実を展開して判断すべきでなく、逮捕当時の違法性を考慮すべきである。そのように理解しなければ善良な市民がいつ如何なる事由で官憲の前に屈せざるを得なくなるか、深慮すべきことである、而も売渡しの事実の背景に構成要件に該当する運搬等の事実があつたとすれば何故に構成要件に該当する事実を表明に出さないか甚だ了解に苦しむところである。何れにしても最初の逮捕状のみならず勾留もその事実により為されておるのであり不適法であり又不法の勾留である。従つてその後に逮捕勾留事実が切替えられても不当逮捕勾留の後の継続的な勾留中の自白である場合には任意性がないと断ずべきである。

次に後の逮捕、勾留状の各被疑事実については前記の如く被告人が曹応常と共謀の上外国産こんにやく荒粉三十五屯位を不正の手段を用いて輸入し関税を逋脱したというのである。ところが第二の逮捕事実については全くその資料がなく曹応常と被告人が共謀して輸入した事実の一片も証拠上顕れてない、これは被告人を再逮捕して取調べるために無理に考え出されたものであつて全く根拠がなく不当である。

而も原判決によれば、記録を調査しても右逮捕勾留に所論の如き不法不当の廉はないとして漠然と主張を排斥している。これは原判決が主張排斥の正当な理由を発見できなかつたからに他ならないのであつてそのことからも右逮捕勾留が不法であり不当であつたことが判る、従つてその後の自白について任意性を欠くことが明らかである。特に供述の経過からみても原判決引用の被告人の供述調書が再逮捕後のものであるところから被告人としては何度でも繰返して逮捕される危険性を考へて心ならずも不任意の自白をせざるを得なかつたものと言はなくてはならない。

被告人の第一審公判廷に於ける供述によると「身柄を拘束されてから最初のうちは事実をありのままに述べていたのであります、ところが取調官からお前が事実を認めないので中浜は大変神経を痛み血圧が高くていまに死ぬかもしれぬと言われたりお前の会社の社員や家族も全部連れてくるぞ等と言われて何回も責められ、そのうち私の会社の女事務員鈴木まで逮捕されてきたので事の意外におどろきまことに精神的な苦痛を味わつたのであります、それでも私は真実を述べて頑張つていたのでありますが会社は閉店するに至り家族の生活費等の心配もつのり加えて暑さが体にこたえ心身共にまいつてもう本当にたまらなくなり命あつての物種ですからとにかく一日も早く釈放して貰わなければと思つているところへ楢島検事からはお前が自白しなければ合法的にいつまでもこのままにしておくと言われ小林警部補からは福井弁護士ほか有力な弁護士がついているのであとから何とでも説明がつくことだし、証拠はあがつているのだから認めたらどうだと非常

弁護人山崎清の上告趣意

第一点 本件追徴の違憲、及び最高裁判所判例違反について一、二(1)<省略>

被告人等に対する本件追徴の根拠である関税法第一一八条第二項は憲法に反し効力なきものであり、少くとも本件追徴は、憲法第三一条、第二九条に違反し、右関税法の規定に関する最高裁判所の判例に反するものである。

一、関税法第一一八条第二項の追徴に関する規定は憲法第三十一条、第二十九条に反する無効なものである。

(1) 最高裁判所は同条の没収につき、適正手続の保障及び財産権保護の観点から至当な関心を示し、すでに、第三者が所有者であるときは、その悪意であるときのみ没収できる旨の規定である(集一一巻一二号三一三二頁)としたうえに、昭和三七年十一月二十八日判決において、第三者に告知、弁解、防禦の機会を与えることなしに、その所有物を没収することは適正な手続によらないでその財産権を侵害する制裁を科することで、憲法三一条、二九条に違反する旨宣言し、さらに昭和三七年十二月十二日判決において、右のように第三者所有物の没収が許されないときは、これに代る追徴も許されないと判示したのである。

かくて、第三者所有物の没収についてその示された論理と熱意に対しては尊敬の念を禁じえないが、さらに進んで同条の追徴についても、その論理を徹底して検討を加えられるべきものと信ずるのである。

(2) 右の昭和三七年十二月十二日判決において、奥野裁判官、藤田裁判官は、一歩を進め、凡そ所有者でない者に追徴を認めるのが不合理であり、違法であるとし、没収が違憲であると否とを問わず、同条同項に追徴を命ぜらるべき「犯人」とは、所有者である被告人をいうものと解すべきものとされているのである。

(3) 本件もまた、右没収された以外の分は、その大半は第三者に譲渡した場合である。故に追徴もできない。

けだし、それら第三者につき、保管の有無、処分、消費等の有無、善意悪意の決定をすべく、訴訟手続に参加を求めない限り、没収できないかを決しえず、追徴もなしえないのである。

とくに、八家治郎に譲渡した場合のごときは、買受けた四十四俵のうち、警察の捜索により二十九俵を一旦押収されながら、なんの故か、返却して、これを没収していない。

凡そ、悪意の転得者については、まず彼等につき没収すべく、没収しえないときは追徴すべきなのである(善意のときには没収しえず、故に没収の換刑たる追徴もあるべきでない、犯人に戻つて、いかなる附加刑を科すべきかを考えるべきである。)

これらの第三者について、前記十二月十二日最高裁判決のいうように、手続的に没収すべからざるものである以上、被告人に対しても、その譲渡の分については、換刑たる追徴を科すべくもないのである(とくに八家治郎その他悪意の疑ある第三者に譲渡した分については、関税法一一八条二項の明文上も迫徴しえないことが明白なのであり、この点からも、悪意につき、本訴に参加させて認定する必要を生ずることとなるのである)。

かくして、同被告人に対し、第三者に譲渡した分について追徴を科した第一審判決を全面的に支持した原判決は、右最高裁判所の判例に反し、また憲法第三一条、二九条に反するものであつて破棄さるべきである。<以下省略>

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